研究Research
戻る高齢期の女性の日常的な身体活動は70歳代の身体機能低下を緩やかにするが、80歳代では維持されない~Australian Longitudinal Study on Women’s Healthからの結果~
戻る本学ヘルスイノベーション研究科では、未病コンセプトに基づく社会システムや技術の革新を起こすことができる人材の育成とともに、健康長寿社会を実現する研究活動を実践しています。
その一環として、このたび本学の根本裕太講師らが実施したオーストラリアのクイーンズランド大学との共同研究の成果がまとまり、論文としてJournals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciencesに掲載されましたので、お知らせします。
1 研究の背景?目的
運動や生活活動を含めた身体活動は、高齢期の介護予防?フレイル予防に有効であることがわかっています。一方、身体活動と身体機能の間には、身体機能が高く保たれているから身体活動ができるというような、双方向の関連性があると考えられます。しかし、先行研究では、これらについて検討されていませんでした。
そこで本研究では、1921年~1926年に生まれたオーストラリア人女性8,238人を1999年から2011年まで12年間追跡した調査データ(the Australian Longitudinal Study on Women’s Health)を用いて、73歳~90歳までの身体活動量?身体機能の経年変化パターンを特定し、各変化パターンにおける身体活動量?身体機能の変化を検討しました。
2 研究結果


- 身体活動量は、高群?中群?低群の3つの異なる経年変化のパターンに分類され(図1参照)、いずれの群においても年齢を重ねるごとに低下する傾向がみられました。
- 身体活動量で分類された3つのパターンを対象に、身体機能スコアの低下の程度を比較したところ、有意差が認められました(図2参照)。しかし、その差はわずかであり、70歳代では高群において身体機能の低下が緩やかになりましたが、80歳代では群間差がみられませんでした。
- 身体活動量の経年変化パターンと各群の身体機能の変化において同様の傾向が確認されたことから、高齢期における身体活動量と身体機能の経年変化パターンには双方向の関連がみられることが示唆されました。
3 まとめ
本研究では、高齢女性における身体活動量と身体機能の双方向の関連性を検討し、身体活動量は身体機能、身体機能は身体活動量の低下を緩やかにする可能性が示唆されました。低下の程度は小さく、70歳代でのみ確認されましたが、調査のスタート(73歳時点)の身体活動量?身体機能レベルに大きなが差があるため、身体活動量が高い群では身体機能障害閾値、身体機能が高い群では推奨身体活動量を下回る年齢を、それぞれ先延ばしにできる可能性が考えられます。
したがって身体活動量?身体機能を促進するための環境整備を進めることが必要であり、これらの政策的な働きかけにより、高齢者の健康リスクの低減につながると考えます。
今後、日本人を対象とした追加検証は必要ですが、同様の結果が得られる可能性は高いと推察されます。
(論文掲載)
Nemoto Y, Brown WJ, Peeters G, Mielke GI. Reciprocal associations between trajectories of physical activity and physical function among older women: findings from the Australian Longitudinal Study on Women's Health. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. (in press)
https://academic.oup.com/biomedgerontology/advance-article/doi/10.1093/gerona/glaf059/8079087
問合せ先
公立大学法人神奈川県立保健福祉大学大学院
ヘルスイノベーション研究科
講師 根本裕太
ヘルスイノベーションスクール担当部長 沖田
電話 044-589-3312 shi-press@kuhs.ac.jp