CIP ANNUAL REPORT 202428者目線の障がい福祉の推進」という新たな政策課題に対し、その実現手段として提唱されている「福祉の科学化」に資する基盤的知見の提供を目的としています。 近年、介護領域においては「科学的介護」というテーマでの政策形成が進展しつつありますが、対人援助サービス全般、特に知的障害の分野における業務プロセスの標準化、臨床現場の知見の統合、さらには支援者の生産性向上、負担感の軽減、ワークエンゲージメントの向上に関する実証的研究は、依然として発展途上の段階にあります。 このような背景を踏まえ、本研究では神奈川県福祉子どもみらい局福祉部障害サービス課との緊密な連携のもと、福祉現場における支援者支援の理想的なあり方を探るためのアクションリサーチを実施しました。 具体的には、県立の障害者支援施設である中井やまゆり園をはじめとする複数の施設に勤務する全生活支援員を対象とした調査を実施?分析し、サービス提供者である支援者の業務負担の実態を可視化するとともに、ワークエンゲージメントの状況を把握し、それらに基づいた負担軽減策の具体的な検討を目指しました。 なお、本研究の推進にあたっては、ヘルスイノベーション研究科の学生がインターンシップの一環として積極的に参画しました。 本研究は、そのプロジェクト名称が示す通り、探索的な性格を有する研究プロジェクトです。そのため、研究活動の大部分は、関連する先行研究の詳細な調査と、それに基づく調査設計に充てられました。 まず、2024 年 2 月に中井やまゆり園に勤務する支援者を対象として実施されたパイロットスタディ(職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)および日本語版バーンアウト?アセスメント尺度(BAT-J)を活用)の結果分析から着手しました。この初期調査からは、対象職員の多くが高ストレス状態にあり、特に疲弊感や認知コントロールの不調といった中核症状において高い数値を示すという現状が明らかになりました。この結果が中井やまゆり園特有の事象なのか、あるいは他の施設にも共通する傾向なのかを検証するため、県立の他の障害者支援施設も対象に含めた、より大規模な調査の設計を構想しました。 概要 本研究は、神奈川県の第 4 期黒岩県政が掲げる「当事進□状況(1)調査設計と実施経緯 さらに、支 援 者 の 負 担 感 や 職 務 に対 するやりが いといった多面的な側面を詳細に検証するため、広範な先行研究のレビューを行いながら、追加的な調査項目の検討を重ねました。具体的には、仕事に対する積極的な関与や活力の状態を評価する指標として「ユトレヒト?ワーク?エンゲイジメント尺度 (UWES)」を追加しました。また、日常業務を細分化した上で、どの業務において特に負担を感じているのかを具体的に把握することを目的とし、要介護認定のケアコードを参照した業務負荷アンケートを新たに設計しました。加えて、デジタル技術の導入が業務負担感の軽減に寄与し得るという仮説に基づき、各施設におけるデジタル技術の導入状況に関する調査も構想に含めました。 これらの検討結果を踏まえ、神奈川県に対して本調査の実施を提案し、県の主体的な取り組みとして 2025 年 3月に調査が実施される運びとなりました。 現時点では、収集された調査結果の詳細な解析には至っておらず、具体的な研究成果として取りまとめられる段階にはありませんが、今後、得られたデータを解析し、県の政策立案に資する基礎的な知見として報告を行う予定です。 (2)調査項目の概要 本研究を通じて構想した調査における調査項目は以下の通りです。A)属性 年齢、性別、雇用形態、所属、職位、勤務歴、保有資格、残業時間B)職業性ストレス簡易調査票 80 項目版(BJSQ-80) 職業性ストレス簡易調査票(57 項目):「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」を測定新職業性ストレス簡易調査票の推奨尺度セット短縮版(23 項目):情緒的負担や役割□藤、作業レベル?部署レベル?事業場レベル資源、ワーク?エンゲイジメント、職場の一体感、職場のハラスメントを測定C)日本語版バーンアウト?アセスメント(BAT-J) 身体的?精神的な疲労による燃え尽き状態を評価(疲労感、精神的距離、認知コントロールの不調、情緒コントロールの不調、心理的苦痛、心身の不調の項目で構成)D)ユトレヒト?ワーク?エンゲイジメント尺度 (UWES) 仕事への積極的な関与と活力の状態を評価(活力、熱意、 福祉の科学化に関する探索的な研究 ( 福祉における支援者支援のあり方に関する研究 )
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